「新エクソシスト・死肉のダンス」

エクソシスト・ビギニング」が公開されたから……というわけでもないが、マリオ・バーヴァの「新エクソシスト・死肉のダンス」のDVDを買った。子供の頃は本当にこれが続編だと思っていた。昔はハリウッドでヒット映画が生まれると、必ずと言っていいほどイタリアで続編のようなもの(=パチモン)が作られたものである。パチモンというと悪いイメージがあるけど、短期間で「それっぽい」映画を作り上げる職人的なスタッフがイタリアには揃っていたということで、「柳の下のドジョウをねらえる」というのもその国の映画産業が発達している証拠だと思う。
 さて、このDVDには二つのバージョンが収録されている。もともとのバージョンの「Lisa and the Devil(リサと悪魔)」は、イタリアを旅行中のアメリカ人女性が不気味な屋敷に泊まるはめになる、という怪談モノで、悪魔祓いとは全然関係がない。
 ところが公開後、「エクソシスト」が世界中で大ヒットを飛ばすのを見た製作者のアルフレッド・レオーネが、神父や緑ゲロなどを撮り足させて大幅に編集し直し、カソリックの神父が病院でアメリカ人女性に取り憑いた怪物と戦う映画・「The House of Exorcism(悪魔祓いの館)」として公開してしまった。どちらのバージョンも一応ざっと観たのだが、別編集というよりはまるっきり別の映画である。
 日本ではどちらも劇場未公開で、かなり昔に後者の短縮版が「新エクソシスト」としてテレビ放映されている。俺も子供の頃テレビでこれを見ているけど、女性の精神と肉体が分離してしまい、肉体の方は神父に悪態をつきながらゲロを吐き、精神の方は古い屋敷をさまよっているというコントラストがすごく強烈だったのだが、こうして見返すと全然違う話を合体させるための致し方のない措置だったんじゃないかと思う。
 映画としては当然「Lisa and the Devil」の方がずっと面白い。「The House of Exorcism」の方は前半はともかく後半になるに従って話が破綻してくる。もともとのストーリーが幽霊屋敷モノに定番の過去の因縁話なので、そちらの展開に引きずられて、神に悪態をつきまくっていた怪物が説教されてしんみりと昔話を始める始末。そもそも、主人公に取り憑いているのも悪魔ではなく死んだ女の幽霊だし。
 ただ、「The House of Exorcism」の方が映像的なインパクトはあるし、なんとなく「『エクソシスト』のようなもの」を観た気にさせる力量はすごい。あと、どちらのバージョンでも珍妙な小芝居を披露しているテリー・サバラスが浮きまくっている*1のだが、「場の雰囲気を読めない狂人」の感じが出ていてかなり不気味。意図した演出なのかどうか迷うところだ。
新エクソシスト 死肉のダンス [DVD]

*1:一応は主役扱いで、クレジットも最初に来てる。