瀧川政次郎『日本行刑史』

 仕事があまりにも忙しくて、オークションのことをすっかり忘れていた。くそう。心を慰めるために、注文しておいた瀧川政次郎『日本行刑史』(青蛙房)が届いたので仕事の合い間にざっと読む。人足寄場を作った長谷川平蔵について多くの紙数が割かれている。人足寄場は無宿人のための監獄であるが、同時に職業訓練所の役割も持っており、日本においては教育刑を取り入れた初の近代的監獄だった。山本周五郎の『さぶ』は、佃島の人足寄場を舞台にしている。
 この著者はこの本とは別に長谷川平蔵の評伝も書いていたはずだ。長谷川平蔵は言わずと知れた池波正太郎の『鬼平犯科帳』のモデルで、火付盗賊改解任の後に人足寄場を作るべく尽力した人物だが(うろ覚えだけど『鬼平』にもこの人足寄場が経営難に陥るエピソードがあったと思う)、どうも著者はあまり池波正太郎及び『鬼平』にいい印象を持っていない気がする。この『日本行刑史』に載せられた長谷川平蔵に関する伝記は、『鬼平』の出版以前に発表されたもので、著者はこの人物の紹介に「力瘤を入れた」と書いている。『鬼平』のおかげで長谷川平蔵は有名になったが、同時に実像からかけ離れたキャラクターが一人歩きすることになって、痛し痒しというところだったのではないか。